蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


『瀬谷探偵事務所』


シンプルなネーム・プレートの掛かった変哲のないマンションの一室に、その探偵社はあった。


地上15階建ての最上階の、一番奥にある1508号室。


拓郎のアパートよりは、かなり家賃が高そうではあったが、あくまで居住用の一室に探偵社の看板を掲げているだけと言った感じだ。


拓郎が通されたのも、12畳ほどの洋間のいわゆるLDKのスペースで、部屋の中にはごく普通の応接セットとテレビが置かれている。


対面式のキッチンが、余計に所帯臭さを際だたせていた。


住人が几帳面なのだろうか、部屋の中は隅々まで掃除が行き届いている。


拓郎は、ダークブラウンでカラーコーディネイトされた応接セットの革張りのソファーに座りながら、もの珍しげに視線を走らせた。


恐らく飛び込みの客は来ないだろうと、拓郎は思った。


「普段は、飛び込みの仕事は受けないんですよ」


一瞬、心を読まれたのかとギクリとした拓郎は、向かい側に座るこの部屋の主、瀬谷恭一の顔にまじまじと眺めた。