蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


「あ、ちょっと待って!」


拓郎は言うと同時に、少女の右手首を掴んでいた。


別に他意があった訳じゃない。話を聞いて貰いたくて、反射的に手を伸ばしたに過ぎない。


だが――。


ビクリ!


少女は絵に描いたように固まり、驚きに見開かれた瞳が拓郎を見つめ返した。


いや、驚きじゃない。


これは……怯えているのか?


「あ、ご、ごめん!」


手から伝わる微かな震えを感じて、拓郎は慌てて手を放した。


酷く悪いことをした気分になるが、それでも食い下がった。


「あの、それじゃ、話だけでも聞いて貰えませんか? 確か、すぐそこにファミレスがあった筈だから、そこでコーヒーでも飲みながらでも……」


しどろもどろになりつつ、何とか説得を試みる。


こう言う時は、押して押して押し切るに限る。それが必要な物ならば、恥や外聞を気にするのは二の次だ。


どうしても、この少女の写真が撮りたい。


最早それは、『被写体に対する一目惚れ』のような物で、拓郎の『カメラマンとしての勘』としか言いようがない。


理屈ではないのだ。


「お願いしますっ! この通り!」


拓郎は再度、深く頭を下げた。