蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


拓郎は、真っ直ぐ藍の瞳を見詰めた。


「まぁその、知っての通りの貧乏所帯で申し訳ないけど……」


そこまで言うと、さすがに照れくさくなって、拓郎は頭をぽりぽりかく。


いつもはビックリ発言で拓郎の度肝を抜いてきた藍だったが、さすがにプロポーズされるとは思っていなかったのか、声も無くただ驚いている。


ああ、やっぱり、ぶっ飛び過ぎたかも……。


弱気がむくむくと、拓郎のなけなしの勇気を押しのけそうになる。


でも、これが今の拓郎の嘘偽りのない、正直な気持ちなのだ。


驚きに見開かれていた藍の瞳から、見る間に大粒の涙が溢れ出した。


それは、なめらかな頬を伝い落ちて、その小さな手の甲を濡らして行く。


それを目にした拓郎は、これ以上ないくらい焦った。


まさか、泣くほど驚くとは思っていなかった。


女の涙は、苦手だ。


泣かれると、どうして良いのか分からなくなる。


特に、惚れた女なら尚更だ。


「あ、別に強制でも何でも無いんだから、あまり気にしないで今のままで居てくれたら、それでいいんだ。驚かせちゃったみたいで、悪かったね」と、すかさずフォローの言葉を口にする。


藍は、『ううん』とゆっくり首を振った。


「ありがとう……ございます。こんな素敵な誕生日プレゼント、私、始めて貰いました」


幾分掠れた声でそう言うと、藍は、木漏れ日のような笑顔を覗かせた。