『邪気のない』と言えば一番ぴったり来るだろう、澄んだ瞳の色。
目は心の窓と言うが、その澄んだ瞳の色は、少女の純粋さをそのまま現しているような、そんな気がした。
「驚かせてしまって、申し訳ない。別に怪しい者じゃないんです。あ、俺、私は、こう言うもので……あれ?」
拓郎は、少女に名刺を渡そうと、胸ポケットやジーンズのポケットをまさぐって、持ち合わせが無いことに『はた』と気が付いた。
「ああ、そうだ。今日は、仕事じゃなかったんだっけ」
納得したように呟くと、くしゃっと相好を崩す。
元々童顔で人好きのする顔なので、笑うとますます少年めいて見える。
このおかげで、大抵の人間は初対面でも警戒を解いてしまうのだが、この少女にはあまり効果が無いようで、何の反応も無くただ固い表情で拓郎を見詰めていた。
――警戒されているな。
そう感じたが、拓郎は構わず言葉を続けた。
「俺、芝崎 拓郎(しばさき たくろう)って言います。フリーのカメラマンをしているんですが……。突然でアレなんですが、モデルになって貰えませんか?」
我ながら、在り来たりなナンパにきこえる。
これじゃ、ますます警戒されるだろうなぁ……。
と思いつつも、押しの一手で更に言葉を続ける。
「是非撮らせて下さい。多少なら、モデル料もお支払い出来ますし。宜しくお願いします!」と、今度は勢いよく深々と頭を下げた。
「あの……」
幾分震えた、トーンの高い澄んだ声が返って来て、拓郎は頭を上げた。
やっと口をきいてくれた。これで、なんとか話が進む。
そう思ったのも、つかの間。
「ごめんなさい。私、できません」
ペコリ。
少女は腰を折って丁寧にお辞儀をすると、クルっときびすを返して拓郎から逃げ出すように一歩足を踏み出した。



