蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


青い空。


動物園。


手作り弁当。


それに、ステンレスの水筒。


パズルのピースが、記憶の中にはめ込まれていく。


拓郎の脳裏に、忘れかけていた記憶がふと蘇る。


それは、遠い幼い日の記憶。


まだ、父が居て、母が居て、無邪気で幸せな少年の自分が居た。


あの日。


日頃、仕事で忙しい父が『やっと休みが取れたから』と言って、連れて来てくれた動物園。


滅多に家族で外出する事がなかった為か、父親も母親も、もちろん拓郎自身もやたらと楽しくてはしゃいでいた。


その帰路、遊び疲れた拓郎は、タクシーの後部座席の真ん中、両親に挟まれる形で母親の膝に頭を乗せて眠っていた。


信号が赤に変わり、タクシーがゆっくりと止まる。


次の瞬間、襲ってきたのは、天地がひっくり返ったような衝撃――。


何も感じなかった。


今まで頬に感じていた母の膝の温もりも、隣に座っているはずの父の体温も、一瞬にして消え去り、残ったのはただ全身が燃えるような灼熱感。