蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


図鑑からは学び得ない物。


その最たるものは、この独特のニオイだろう。


当然のことだが、生物は物を食べ排泄する。


狭い空間に雑多な動物がひしめき合う動物園には、動物の数だけのニオイがありそれが渾然一体となって、独特のニオイを醸し出している。


『田舎の香水ね』と称したのは、美奈だったか。


町中で嗅げば間違いなく『悪臭』だが、動物園となるとあまり気にならないから不思議だ。


拓郎はさして頓着しないが、ベンチに広げた弁当を美味しそうに食べているところを見ると、藍も気にしないタイプらしい。


「コーヒーも入れて来たんです。飲みますか?」


粗方、お手製の弁当を平らげた所で、藍がステンレスの保温水筒を取り出した。


「ああ、貰おうかな」


「はい」


――平和だな。


こんな風に、ゆっくりと何処かに遊びに来るのは、いつ以来だろう。