動物園は、人間のが動物を見る為の施設であって、決して動物の為の施設ではない。
単に、楽しい場所と言うのか、それとも――。
「そうですね……」
少し伏し目がちに考え込んだ後、藍はが静かに口を開いた。
「必要悪、でしょうか」
ポツリと呟く藍の瞳に、悲しみの影が揺れる。
『ヒツヨウアク』
思いも寄らない単語が藍の口から飛び出して、拓郎は少なからず驚いた。
あるいは、『可哀想』と言う言葉が出てくるかも、とは思っていたが、まさか『必要悪』なんていう単語が飛び出すとは思ってもいなかったのだ。
「どうして、そう思うの?」
「そう、ですね。……人間には楽しい場所だけど、動物にとっては哀しい場所だから……かな」
楽しくて、哀しい場所。
「確かに、そうかもしれないな」
――この娘は、自分が思っているよりずっと沢山の事を知っていて、沢山のことを考えている。
17歳、17歳と、年の事ばかり気にしていたが、ただの天然箱入り娘とは違うのかも知れない。
拓郎は、今まで見えずにいた、藍の一面を始めて見た気がした。



