蒼いラビリンス~眠り姫に優しいキスを~


藍は、生まれて始めて来たのだと言う動物園。


図鑑や映像で見たことはあっても、実物を目にしたのは初めてなのだ。


「本当は、パンダも見てみたかったんですけど……今は居ないんですね」


パンダの家系図の看板を見上げながら、藍が悲しそうに呟いた。


日本に最初に来たパンダは『ランラン』と『カンカン』だったか。


最後に残っていた雄の『リンリン』もつい先日死んでしまい、主の居なくなったパンダ舎の前は、粛然とした追悼ムードが漂っていた。


「パンダの尻尾が本当に白いのか、確認しそびれたな」


特にパンダに肩入れする訳ではないが、拓郎も、寂寥感を禁じ得ない。


絶滅寸前だというジャイアント・パンダ。


こうして動物園に動物を見に来ている人間が、故郷を遠く離れたコンクリートの檻の中で生を終えたパンダを可哀想だと思うのは、エゴだろうか。