『あなたが話して』というジェスチャーだと、拓郎は悟った。
気は重いが、仕方がない。
ポリポリと鼻の頭を掻いた後、拓郎は藍の瞳と自分の視線を合わせた。
「藍ちゃん、この白い子猫はもしかしたら、育たないかもしれないよ」
「え……? 育たない?」
諭すように言う拓郎の言葉に、藍は驚いたように目を瞬かせる。
「そう。この子は他に比べてかなり体が小さいだろう? こういう個体は外見だけじゃなく内蔵も未熟な可能性があるんだ。他の子猫に比べて体力も劣る。……結果、病気になりやすく、育ちにくい」
飼い猫だからこそここまで育っているが、自然界であれば、真っ先に外敵の餌食になるタイプだ。
「そんな……」
拓郎の予想通り、藍は悲しげに声を詰まらせて、白い子猫をじっと見詰めた。
沈黙の時が、静かに流れる。
嘘を言っても、始まらない。弱い子猫は生き残れない。
それが猫に限らず、生物に科せられた変えようのない現実だ。
『子猫の育ての親』になるのは、拓郎じゃなく藍なのだ。どうするかは、藍自身が決めること。
生まれながらに弱い個体を、それと知った上で飼いたいと言うのなら、拓郎は反対する気はない。



