午前4時を回っていた。
どうせ隣の敷地なので、パジャマの上に美奈に貸して貰ったジャンパーを羽織った姿でアパートに戻った藍は、送ってくれた貴之に礼を言い、はやる思いを胸に、明かりの漏れる玄関のドアを開けた。
玄関には今朝拓郎が履いていった革靴が歩いた形のまま脱いであって、思わずクスリと笑ってしまう。
LDKの電気は付いているが、拓郎の姿は見えない。
出掛けに『毎年、酔い潰されるんだ』とぼやいていたから、帰ってすぐに眠ってしまったのかもしれない。
小声で「ただいま」を言って、拓郎の革靴と自分のスニーカーを揃えて並べ、藍は奥の寝室へ足を向けた。
「芝崎さん?」
声を掛けて半開きの寝室の襖から中を覗くと、明かりの消えた部屋の中、『ベットの上に』と言うよりは、『ベットの淵に引っかかって』と言った方が良い体勢で、仰向けに倒れ込んでいる拓郎の姿が目に入った。
やっぱり、眠っている。
起こさないようにと、ソロリソロリとベットに歩み寄った藍は、まるで少年のような無邪気な拓郎の寝顔を見て、思わずクスクスと笑い声が漏れてしまい、慌てて両手で口を押さえた。



