「あら、先生の所に泊めて貰うって言ってたのに、帰ってきたのね。って、まさか飲酒運転じゃないでしょうね」
「いや、タクシーだったよ」
「へえ、あの締まり屋が、タクシーで帰って来たんだ」
『ふふふ』と美奈は、藍の顔を悪戯っぽく覗き込んだ。
「誰かさんの顔が早く見たくなって、タクシーで帰った来たのかもね、藍ちゃん」
「あの……」
違う。
拓郎に会いたくなったのは、藍の方だった。
無性に会いたかった。
あの笑顔を見て、ちゃーの赤ちゃんの事を話したかった。
新しい命が生み出される瞬間のあの感動を、聞いて欲しかった。
それに、拓郎もお腹を空かせて帰って来たのかもしれないから、何か作ってもあげたい――。
「アパートに戻る?」
美奈の言葉に、藍はコクンと頷いた。
「夜中にすみません」
「良いのよ。分かったわ。母さんには私から言っておくから、早く行ってあげなさい」
「はい!」
ドキドキと高鳴る鼓動を抱きしめながら、藍は貴之のエスコートで拓郎の待つアパートの部屋へと向かった。



