歩はこんな感覚に囚われる事が以前からなかったと言えば嘘である。
それは日々の単純なやりとりの中で、歩の中に根深く植え付けられていた。
歩の母は歩に対してよくこんな台詞をはいたものだ。

(ご近所の○○ちゃんは成績トップですって。なのに歩と言えば、ろくに勉強もしない。)

歩自身、意識している訳でもないのに植え付けられた先入観や他人との比較に怯える自分がいることを隠せずにいた。
自分の心は騙せない…と、こんなちっぽけな言葉がいつの間にか歩を支配して止まなくなっていくのだった。