時間がたつのはあっという間だ。
歩の心が立ち止まろうと、残酷に進む。

ざわめきが聞こえるオフィス街のカフェで、優雅な昼さがりの時間を毎日灰になったかのようにすごす日々が続いた。
一年…二年…あっという間に過ぎていった。

もう私なんて消えてしまっても構わないのかもしれない。そんな風に思うほどになっていた。
男なんかみんな死んでしまえばいいのに…
そんな時、以前立ち寄った古本屋のことをふいに歩は思い出す。

老婆(あんた、その世界に行きたいのかい?)

老婆の言った言葉がふいに脳裏をよぎり、歩は再度古本屋へと足を運んでいた。
そして、また以前手をかけた本へと手を伸ばした。するとまた、後ろに老婆がたっていた。
はっとして、歩は振り返る。

老婆(やっぱり戻ってきたのかい。もう二度と戻れない。この本を二度手にした者は。)

歩(え…)

老婆(違う世界を歩いてみるがいい)

その瞬間時空が歪み始めた。
まるでブラックホールに落ちていく。
そんな感覚をかんじながら歩は時の狭間へと消えていった。