婚約破綻してからの半年間、歩は何もする気がおきないでいた。

頭の中では、なぜ直前になって婚約がなしになったのか、一体何があったのかわからないでいた。

いい加減に仕事を探さなければと、傷ついた自分を忘れるかのように仕事を探していた。
面接にいった帰り道、小さな古本屋をみつけた。こんな汚い古本屋の経営は一体どうなっているのだろうか、半ば沢山の疑問を抱えながら歩は本屋に立ち入った。
特に欲しい本がある訳ではないが、一冊の本のタイトルに目がいった。
その本のタイトルは何とも奇妙なタイトルで、闇の世界へようこそ。
そう、書かれていた。気持ちわるい本だなぁ…そう思い歩が本棚に本を戻した時に後ろに人の気配を感じた。
はっとして振り向くと、89歳くらいだろうか。シワシワの老婆が立っていた。
老婆はびっくりする歩に言う。

老婆(あんた、最近結婚が破綻したねぇ。どうした、そんな世界へ行きたいのかい?)

歩(い、いや、別にタイトルが気になってしまってつい…てゆうか、どうして私のことがわかったんですか)

老婆(私には何でも見えてるよ。そうだねぇ、次はあんたの番かねぇ)

歩(なにがですか)

不気味な老人をさけるように、歩はその古本屋を足早に後にした。
冗談はやめてくれと思いながらも、内心歩は気がかりで仕方がなかった。
すると歩のバッグに入っていたケータイがなった。

メールが届いた。

見覚えのあるメールアドレスからだった。

(美智子さん、来月の結婚が楽しみで仕方ない。今日も仕事がんばるよ)

歩(え…)

歩は一瞬頭が真っ白になる。そして、またすぐに気をとりなおした。
それは浩介からの間違いメールだった。

歩は何かの間違いではないかと思いながらも、見覚えのあるメールに戸惑いを隠せずにいた。自宅までたどり着き、玄関先で座り込んで怒りか悲しみかわからないほど泣き崩れた。

なんて言葉にしたらいいかはわからないが、裏切りと孤独を感じた日だった。
大切なものが壊れてしまった。そんな気がしてならなかった。
ブチッ…
糸が切れたみたいに歩の中で何かが切れてしまったような気がしていた。

壊されてしまった思いと、消えてしまった大事な感情は、2度と修復することはないと思った。