お姫様と若頭様。【完】



いつものように夕梛の前で着替える。


最初から抵抗はなかった。


しかも夕梛は出てって、って言っても
絶対に出て行かない。


いつも私に何かあった時のために
必ずそばにいる。


…流石に学校は無理だけど。




そしていつも通り服を脱いだ時ーー





「お嬢様…"また"ですか??」





「えっ?」



人の気配がして後ろを向くと、
夕梛が近づいてきてるところだった。



そして私に手を伸ばしたかと思うと、
背中の"あの"部分に触れた。



「イッ…!」


その瞬間ピリリとした痛みが走る。



そんな私の表情を見て、
彼は不満そうな顔をした。


「あまり無理をなさるのは
感心できませんね。


…また"あの方"ですよね」


今度は強く、そして断定した。


「…私の所為よ。


……私が"あの人"を、
愛することができないから…。


"あの人"は私の分まで
私に愛情を注いでる。





…『偏った愛』ほど恐ろしいものは、
きっとないわね。



…私のことを私として見てないのよ」



私が冷めた笑いをすると、
彼の目が見開かれた。


普段はしない私の表情に
驚いているようだ。




そして私のことを心配してか、
そっと手を握ってくれた。


…冷たい。





…でも、

"暖かい"



それは私の手が冷たいからか、

彼の心が暖かいからか。



多分それはどちらも当てはまってるけど
後者の方が強いと思う。