お姫様と若頭様。【完】





落ち着いた頃を見計らったように黒縁眼鏡が私に席に座るよう言った。


だけど私はどこへ座っていいかわからず突っ立ったまま。


周りを見渡すけれど、どの席にも人が座っていて相席になってしまう。

流石に初対面の…しかも男の人の近くに行くなんて、あの日を体験した私には到底無理なことだった。



「…ここ座って?

えっと…聖ちゃんでいいかな?」

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
(まぁ彼が言わなければ知るはずもないけれど)

背の高い優しそうなお兄さん的な人が席を移動して自分の席を私に勧めてくれた。


コクンと頷くとお礼を言って座らせてもらった。

彼がいたからか、少し温かいソファ。

フカフカで、座り心地がいい。


そんなソファに少し感動していると声がかけられた。



「英捺 聖
凛條高校2年 17歳
8月9日生まれ
この地域に生まれ特技はピアノにフルート、バレエ
父親は会社社長
母親はピアノ教室の先生
兄弟はなし
中学2年で彼氏が出来たが、友人に裏切られ破局
それと共に唯一の友人を失う
それ以来人間不信がちで友人・彼氏共に今は不在

その他にも現在学校では男子によく好感を持たれることから女子と対立
最近は昼・放課後に1〜3年全ての学年の女子に呼び出しされる

その他にも…「やめて…」…」


どうして…どうしてそんなことが言えるの?

人の過去をこんなに人がいる所で堂々と話して。

私の人権は?プライバシーは?


過去に友達や彼氏とそういうことがあったのも事実。

名前や家族編成、
パパとママの職業も少し違う。

それはパパが改ざんしているから。

私の名前だって本名じゃない。




…だけど。

私が受けて来た傷は変わらない。


中学の頃から…ううん、小学校や幼稚園の頃から私は女子から疎まれがちで、そんな中でも唯一仲良くしてくれた友達。

だけどその子も周りとは変わらない…ううん、もっと酷いこともされた。


忘れよう、忘れようって心にずっと閉じ込めて来た記憶。




それをなぜ、目の前の人はこんな風に淡々と語れるの?




「私のこと…貶したければ、どうぞご自由に。

知っての通り私は呼び出しなんて日常茶飯事だし守ってくれる友達もいません。


…だけど…だけど私は、それを忘れようって…そう思って来たんです。



それをわざわざ今、
ここで明かしたりしないで下さい。



私は…友達や彼氏に裏切られた、そんな言葉で片付けられるほど簡単な過去ではありません。


ずっと…1人だったことも否定出来ませんし…」


そう言って立ち上がろうとした。


だけど…。















「お前を守っていく上でお前を調べることは必要なことだった。


それをここで明かしたことは謝る」




…なぜか、彼の方が謝った。