その時ふわっと何か安心する匂いが香った気がした。
「楓」
凛と響いた声。
それは、
私がずっと聞きたかった彼のもの。
「はい」
楓と呼ばれた黒縁眼鏡の彼は返事をすると別の部屋へと向かった。
そして戻って来た彼の手に握られていた袋。
私に近づくと嫌がる私を抑え込みそれを口に当てた。
「んっいやっ…はぁはぁ…はっ、離っし…てッ!」
だけどやはり男の力と女の力。
あの時のように私の動きは封じられてしまった。
「ゆっくり息をしろ」
そしてやっぱり命令口調の黒縁眼鏡。
もう諦めるしかなく、
ゆっくり呼吸を始めた。
すると段々と呼吸は落ち着き、濁って見えていた光景もクリアになって来た。


