それからほんの、数日後のことだった。
私の学校で噂が流れた。
『彩狼総長が道端で襲われそうになった
女を助けた』
『その女は近々彩狼の姫となる予定』
それはもしかしたらあの日のことを言っているのではないかと思った。
誰かがあの光景を見ていて、噂を流したのかもしれない、と。
彼はこの噂を聞いて
どう思うのだろうか?
迷惑、そう思うのだろうか?
少なくとも私は、
また彼に会うきっかけが欲しかった。
その一方で、
彼に嫌われるのが凄く怖い。
あの日から彼とは会えないまま。
話すどころか姿さえ見れない。
私たちの関係が発展することなんて、
無いに等しい状況だ。
だけどその日は本当に、
いつも違って。
「あなたは英捺 聖さんですね?」
"ですか?"ではなく"ですね?"と言った
男の人。
眼鏡をかけていて黒髪の真面目そうな雰囲気だけど威圧感のあるオーラ。
なんというか、鋭い感じ。
それはきっと、この冷たい瞳がこうしているのだろう。
「…はい」
ただ私は、この人のことを知らない。
なのになぜ、
彼は私のことを知っているの?
…噂、聞いたのかな?
「彼がお呼びです。
一緒について来て下さい」
「…はい?」
なんでこの人ついて来いとか…。
それに彼って?
っていうかまた"ついて来て下さい"で
"ついて来てくれますか?"じゃない。
まるで強制みたい。
自分の名前を名乗らないしまるで私に拒否権はないみたいな話し方だし。
本当、なんなのこの人。
見かけによらず超非常識?


