お姫様と若頭様。【完】



私も男たちも呆気に取られ、彼は男たちの動きを見ながら暫しの沈黙が続いた。






そして意外にも口火を切ったのは
彼の方だった。





「彩狼で…俺たちのシマでこれを犯すことがどういうことを意味するか、
てめぇらわかってんのか?」



彼の形の良い唇が紡いだ綺麗な低い声。



って、そんなんじゃなくて今…シマ、って言った?




彼の声にハッとした男たち。
その中の1人がリーダーっぽい人に
声をかけた。


「おい、こいつ護衛も付けず1人だぞ」


「ハッ彩狼総長様ともあろう方がこんな時間に1人で散歩なんて…。



俺らに狙えって言ってんのか?」


突然目をギラギラとさせた男たち。

さっきまでの阿保顔はどこへやら、
闘争心剥き出しの男たち。

そんな奴らが捉えるのは勿論、
あの美形の彼だ。


"多勢に無勢"


男たち5人に対し彼はたった1人。


たとえいくら体格さや力の差があったとしても人数の差は歴然。


正直彼のことを疑わずには
いられなかった。






この時の私は、彩狼が関東のトップクラスと言われる意味を…彩狼の強さを…彼の強さを、全く知らなかった。






彼がこんなにも周りを惹きつける理由を
私は初めてこの目で感じた。