それでも僕は君を離さない

「樋口さん。」と誰かに呼び止められた。

業務か総務か人事か経理の女性二人だった。

「今日は楽しかったわね。」

「樋口さんのひと言が起爆剤になったのよ。」

「本当ね。今日はよくしゃべったわ。」

「私もよ。樋口さんのおかげね。」

と二人に話しかけられた。

「いえ、こちらこそ。楽しかったです。」私もそう言った。

「じゃ、またね。」

私は二人の背に軽く頭を下げて見送った。

室内にはあと透吾さんだけになった。

私は彼を無視できなかった。

「メールできなくてごめんなさい。」

彼の目を見られなかった。

「いいんだ。僕には無理しなくていい。」

私は彼の言葉に甘えるしかなかった。

「失礼します。」

私は彼より先に廊下に出た。