それでも僕は君を離さない

「坂下さん、お疲れさまです。確認ですか?」

ラボの主任は当然理系の出だ。

6年のキャリアを持つ久保玲香は今日もツヤのあるすっぴん肌をさらしていたが

グロスたっぷりの唇が僕にはゼラチンにしか見えなかった。

「新人はどう?」

「優秀な人材ばかりで助かっているわ。」

「そう。」

「でもまだ新人研修は始まったばかりよ。」

「そう。」

ラボには検査医が20人いた。

その内の8人が新人の研修医だ。

僕はガラス越しに彼らを眺めた。

主任はインターフォンでラボにいる一人を呼んだ。

「笹尾くん、オフィスに来て。」

呼ばれた人物はデスクを離れてグローブを取り両手を洗浄していた。

「最も優秀な人材を研修リーダーに選んだのよ。」

彼女の声には自信が感じられた。

分厚いガラス製の自動ドアが開き

奈々の言う笹尾先輩がオフィスに入ってきた。

「イレギュラーのデータを見せてほしいの。」

「はい。」

彼は主任の指示に従いPCに向かって座った。

笹尾忍。

イケメンの中のイケメン。

長身の超イケメンだ。

しかも理系の。

ラボの女主任が夢中になって当然だと思った。