「何だよ、その顔は」


「い、いえ……」


「ボーッとするな、降りるぞ」


エレベーターを降り、前を歩く先輩に倣うように自動ドアを抜ける。


外はすっきりとした晴天で、ほとんど眠っていないのに心地好さを感じた。


「あ、あのっ、先輩!」


「何だよ?」


「えっと……」


先輩を呼び止めたものの、何から訊けばいいのかわからない。


「とりあえずモーニングに行くぞ。それからの事は、朝飯の後でいいだろ」


そんな私を見つめる彼が、フッと柔らかく笑った。


「彼氏のいない可哀相な高瀬に、俺の貴重な時間をやるよ」


「え?」


目を小さく見開いた私の手袋をしていない手が、大きくて温かい掌に包まれる。


「要するに……」


それに驚いて硬直した私を見て、先輩が悪戯な笑みを口元に浮かべた。


「いつも真面目に頑張ってるご褒美にたっぷり甘やかしてやる、って事だよ」


フワリ、柔らかな風が髪を撫でる。


胸の奥がトクンと音を立て、確かな甘やかさを抱く。


陽溜まりの中で私を見つめる優しい瞳にこの気持ちがとっくにばれていた事を悟り、同時に少しだけ早い春の訪れを感じた――…。





             END.