次の日、私は入部届を胸に抱いて途方に暮れていた。

教室を見回しても、被写体になってほしい人がいなくて。

いや、そんなこと言ったら失礼か。

私は、一人でぶんぶんと首を振る。



「何やってんの、萌。」


「あ、花ちゃんおはよー。」



私は、親友の花ちゃんをじっと見つめる。



「な、何よ。何かついてる?」


「うーん、」



私のうなり声に、花ちゃんは驚いている。


花ちゃんは、申し分なく可愛いけれど。

撮りたい、というのとはちょっと違うかな。


頼む分際で、偉そうにって思うけど。



「どうしたのよ、萌。」


「陰のある人がいいな。」


「はっ?急にどうしたの?」


「ううん。」



首を振ると、花ちゃんは不思議そうに首を傾げる。



「ね、もしかしてそれ、萌の恋愛観?」


「へっ?」



れんあい、という言葉に敏感に反応してしまう。

あー、やっぱり私はおかしい。

昨日から、なんだか調子が狂ってる。



「萌、恋しちゃった、とか?」


「えええー、うそうそうっそ?萌恋したの?誰にっ?」


「結城うるさい。」


「いや、だって俺たち男子からしてみたら死活問題だから!俺たちの萌ちゃんが恋をするだなんて!」


「聞いてみただけ。萌そんなこと言ってないでしょうが。」



花ちゃんがこつん、と結城くんを殴ると、結城くんは大げさに痛がる。

なんだかんだ言って、この二人は仲がいいと思う。



「で、どうなの萌ちゃん?」


「恋、なんて。」



してない、と言おうとして口を噤んだ。


昨日のドキドキを思い出したから。


夕陽に照らされたあの横顔は、白くて、少し翳っていた。

切なげに伏せられた睫毛と、きゅっと上がった口元。



「萌?」


「してないよ、恋なんて。」



そう。

私はただ、写真部に入りたかっただけだもん。



「よかったー!」



結城が喜ぶのを横目で見ながら、私はひとつため息をついた。


――結城も、なし。


被写体になってくれそうな人は、やっぱりこのクラスにいそうもなかった。