「来月のコンクール、何の写真出すの?」


「あ、全然考えてませんでした。」


「あと一か月だから、そろそろ考えないとまずいんじゃない?」



先生に、そう言われた金曜日。

私は、色々考えてみた。

風景なら、どこがいいかとか。

モチーフは、何がいいかも考えた。

だけど、やっぱり。

浮かばなかった。


一番最初に撮った、先生の横顔よりも、いい写真なんてあるはずなかった―――



「先生の写真にします。」


「え、」


「だめですか?」


「それは……。」



先生が、難しい顔をした意味なんて、分からなかった。

だけど、しばらくして先生は言った。



「……いいよ。被写体になるのを引き受けたのは俺だし。朝倉がそうしたいなら、俺には止める権利はない。」


「先生?」



先生の顔ににじみ出る苦悩。

私は何か、まずいことを言っているだろうか?



「何か理由があるなら、諦めて他の写真にしますけど……。」


「ああ。……いや、いいんだ。気にしなくていい。」



どこか歯切れの悪い先生の様子に、私は首を傾げるばかりだ。



「あ、ところで朝倉って、家で学校の話とかするの?」


「え?……んまあ、それなりに。」


「俺のことも話してる?」


「横内先生のことは、……なんか、秘密にしたくて、そう言えばあんまり話してません。」


「……そう。」



何か、今日の先生は変だ。



「どうかしたんですか?」


「何でもないよ。」



先生には、秘密が多すぎる。

先生の“何か”を感じる度に、私は一線を引かれたような気分になって。

だけど、いつかその何かを知ることになるのが、怖いような気もする。


一番最初に撮った、夕闇の中の悩ましげな先生のシルエットの写真を確認しながら、私はため息をついた。