だけど、やはりみんなが噂するだけあって、先生は強いオーラを放っていた。



「6月と12月にコンクールがあるんだ。それから、11月には芸文祭がある。それを目指して、細々とやってる部活だよ。」


「コンクール、ですか。」


「そう。活動自体は、自由。だけど、学校行事の際には君たちに撮影係を務めてもらう。それはいい?」


「はい。」


「それから―――――」



部室には、ひとつだけ西向きの窓がある。

そこから部室に差し込む夕陽が、先生の色白の横顔を橙色に照らしていた。

それは、何かはっとするほど美しくて。

今すぐカメラを構えたくなるような、そんな景色だった。



「聞いてる?」


「あ。……すみません、聞いてませんでした。」


「だから、1週間以内に被写体を決めろ、って言ってるんだけど。」


「被写体、ですか?」


「そう。景色ばっかり撮っててもつまらないだろ?誰でもいいから一人、協力者を探すんだ。これは、それからでいい。」



先生は、私の持っている入部届を指差した。

ああ、そっか。

それが条件なんだ。

自分で見つけられなかったら、入部はなしってこと。



「分かりました。ありがとうございます。」



ぺこ、と頭を下げる。

先生は、片手を上げて応える。


と、その時、先生がまじまじと私の顔を見た。




そして、一歩、二歩、と距離を縮めると。




細い指先を、私の頬に伸ばして―――――





「睫毛、ついてた。」





一瞬の沈黙の後に、先生はそう言った。


私は、熱くなる頬を隠すことができずにいた。



こんなの、反則―――




「どうしたの。顔、赤いよ。」


「な、ななな、何でもないですっ!」




動揺する私を前に、先生はふっと薄く笑った。



「じゃあ、入部届、待ってるから。」


「……はい。」



そして、私に背を向けて去って行く先生。

そのほっそりしたスーツの後姿が、ここに来るまでとはまた違う光を纏って見えた。



部室に一人残されると、私は自分の鼓動がドキドキとうるさいことに気付いた。

どうしちゃったの、もう。

先生目当てじゃなかったんじゃないの―――



治まらない鼓動を感じながら、私は早足で写真部の部室を後にした。