ひだまりに恋して。

朝、歩いていると。



「おはよ!」


「……村本、先輩。」



今はあまり会いたくない人に、会ってしまった。

しかも、先輩は当然のように私の横に並んで歩き出す。

これでは、もっと大勢の人に見られてしまう……。



「あの、先輩、」


「朝倉、今日何の授業あるの?」



意を決して、私の返事をしようと思った。

それなのに、先輩はそれが分かっているみたいに、私の語尾に被せて質問をしてくる。

私に何も言わせないつもりなのだろうか。



「……数学と、現代文と、体育と、化学と、英語と、倫理、です。」


「あっ、そう。……朝倉は、どの教科が好きなの?」


「美術、ですかね。」


「へえ!朝倉って絵が得意なんだ!」


「得意なわけじゃないです。」



我ながら、面白くない会話だ。

だけど、広がらない話題ばっかり提供する、先輩も先輩だと思う。

というか、コミュニケーションというものは、お互いに取りたいと思って初めて成立するものなんだと、よく分かる。



「先輩、」


「あ、朝倉ってさー、」



どうしても私の言葉を聴きたくないらしい先輩に、私は段々呆れてくる。

もうすぐ着くから、この話題は今日の帰りにしよう、と諦める。


高校の門に差し掛かったとき。

そこに立っている人を見て、私の心臓はトキン、と鳴った。


どうして、横内先生―――


はっとする。

そうか、登校指導だ。

一週間に一度、先生が立っていて、登校時の身だしなみなどをチェックされる。

運悪く、今日は横内先生の番なんだ……。


でも、ここまで来てしまったらもうどうすることもできなくて。

私は、先輩と並んで俯き加減に歩いていた。

先生の、視線を感じる。



「おはよう。」



横内先生が、私たちに声をかけた。



「おはようございます!」



村本先輩が、にこやかに大きな声で挨拶を返す。

私も挨拶しなきゃ、と思うのに、声が出なくて。

俯いたまま唇を噛みしめた。


門を通り過ぎて、私は泣きそうな顔で振り返った。

すると、こちらを見送るようにじっと見ていた先生と、目が合った。

私を捕らえるように、真っ直ぐ向けられた眼差し。

私も、目を逸らせなくなる。



「朝倉?」


「あ、……はい。」



村本先輩に不思議そうに声を掛けられて、私はやっと目を逸らした。

ドキドキしている胸を、そっと押さえながら。