ひだまりに恋して。

家に帰ってもずっと、先生の声が耳から離れない。



―――「村本と、キスしたの?」


―――「ふっ。どーせ、高校生の恋愛なんか三か月もすれば終わるんだろ?」




どうして、そんなこと言うの?先生。

どうしてあんなに、切ない顔をするの?


これは、私が望んでいたこと……?


悶々と考えていると、突然電話が掛かってきて驚く。

見ると、花ちゃんからだった。

今日、変な態度を取ってしまったことへの罪悪感があって、なかなか出られない。



「……花、ちゃん?」


「萌、」



電話に出ると、花ちゃんはいつもより沈んだ声だった。



「ごめんね、萌。」


「え?」


「萌の気持ち、考えてなかった。……萌、村本先輩じゃなくて、横内先生が好きなんでしょ?」



今の気持ちを言い当てられて、私はしばらく何も言えなかった。

分かってる。

それが本当の私の気持ち。

村本先輩を裏切ってることも、分かってる―――



「私ね、萌が村本先輩と先生の間で、揺れてると思ってたの。」


「え?」


「だけど、キスまでしたなら、もう完全に村本先輩の方に傾いたんだって、そう思って……。横内先生が来たから、ちょうどいいと思ったの。……横内先生に聞かれたら、もう萌は後戻りできないから。そうすれば、萌は横内先生のこと、吹っ切れるって、そう思って……。」


「花ちゃん……。」


「ごめんね、萌。萌の顔見て、すぐわかった。……萌、最初から横内先生一筋だったんだって。……村本先輩に、押し切られて付き合ってるんでしょ?」


「花ちゃん、私ね、……村本先輩と、正式に付き合ってるんじゃないよ。」


「え?」


「お試しでいいからって、言われて……。思わず、頷いちゃったの。」


「お試し?何それ。……それで先輩、キスまでしてきたの?最低じゃん。」


「でも、なんかもうすぐに噂が広まっちゃって。女の先輩に絡まれるし、先生とは気まずくなるし……、私がバカだったの。花ちゃんは悪くないよ。」


「萌……。」


「花ちゃんが言わなくても、先生は知ってたと思う。」



言いながら、泣きそうになってしまった。

花ちゃんがいてよかった。

花ちゃんに、すべてを話してしまいたい。


だけど。


先生のことは言えなかった。

先生が、私にあんな態度を取ったことを話したら。

花ちゃんは、何かしらの推理をしてくれるはずだけど。

だけど、その言葉を聞くのが怖かったんだ。

その内容が私にとって、プラスであっても、マイナスであっても。



「萌、村本先輩に、ちゃんと返事した方がいいよ。」


「うん。」


「あれはデマだったって噂、今度はちゃんと先生の耳に入るようにするから。」


「……いいよ、そんなことしなくて。」



だって、先生に「キスしたの?」と問われた時。

私は何も言えなかったから。

だから先生は、肯定だと思っただろう。

そして、それは正しい。


だったら今さら、あれはデマだったと聞いたところで、先生は信じない。



「萌、元気出して。」


「ありがと、花ちゃん。」



電話を切る。


こうなることを、全く予想できなかったわけではない。

でも、私はずるいから。

先輩を利用してる。


絶対に誰にも言えない思いを、私はこの胸の奥に沈めて眠った―――