「部室は一応ここだけど。幽霊部員が多いから、部で集まることはあんまりないかな。」


「そうなんですか。」


「ところで君は、何ていう名前?」


「朝倉、です。」


「朝倉は、何で写真やりたいの?」


「何て言うか、目的はなくて、でも……。」



自分でも、何を言っているのかよく分からなくて焦る。

私の悪い癖。

いつだって、自分の思うことを整理のつかないまま口に出してしまう。

それでも、先生はその琥珀色の瞳を、真っ直ぐに私に向けてくれていた。



「カメラが、あるからですかね。」


「へー。」


「すみません、なんか。」



横内先生は、ふっと笑う。



「それだって、大事な理由だと思うよ、俺は。」



その微笑みの、虜になる女子生徒は多いらしい。

大学を卒業してすぐの横内先生。

1年前、私たちと一緒にこの高校に赴任した。

ストレートで採用試験に受かってしまうんだから、きっとすごく頭がいいんだろう。

それだけじゃなくて、その身のこなしの一つひとつが、大人で。



横内先生目当てで写真部に入る子も多いらしい。

でも、結局写真を好きになれずに去って行ったり、幽霊部員になってしまうみたいだ。



私はそういうのとはまた違う。

先生の顔さえきちんと認識していなかったくらいだから。