次の日の朝。



「え?」



上履きの中に、折り畳まれた紙が入っていた。



―――死ね



え、え、え。

これはいじめですか?


顔を上げると、知らない女子生徒が、3人で私を取り囲んでいた。



「おい、いい気になってんじゃねーよ。」



名札の色で、先輩だと分かる。



「な、何のことですか?」


「はあ?ばかにしてんの?」



一人に胸倉を掴まれて、私は慌てる。



「別れろよ。」


「え?」


「村本くんと別れろって言ってんの!」



あ、なんだ。

そんなことだったんだ。

こんな状況なのに、ちょっと納得する。



「瑞紀、先生来るよ。」



瑞紀と呼ばれた先輩は、舌打ちをすると私の胸倉をつかんでいた手を放した。

自由に息ができるようになって、私は大きく息を吸う。



「聞かないと、どうなっても知らないからな。」



そう言い捨てて、先輩たちは去って行く。

私は呆然として、そこに取り残された。



「ねえっ!萌、キスしたってどういうこと!?」



そこに、登校してきたばかりの花ちゃんがやってきた。

開口一番、その質問だ。



「ちょっと、花ちゃん、声がおっきいよ!」



廊下で、昨日のことを花ちゃんに相談した。

すると、花ちゃんは素っ頓狂な声を上げて、驚いている。



「待って待って。村本先輩と、お試しで付き合うことになったところまでは聞いた。で、で?」


「だからあー。」



ふと、廊下の向こうから横内先生が歩いてくるのが見えた。

私の胸は、きゅうと締めつけられる。



「それで、萌は、村本先輩と、」


「花ちゃん、その話は後で、」


「キスしたの?!」



花ちゃんの通る声が、先生に聞こえなかったはずはない。

でも先生は、何も聞かなかったかのように廊下を通り過ぎていく。



「ねえ、萌ったら!」


「花ちゃん……。」


「え、なに、どうしたの?」



じわっと涙が滲む。

聞かれちゃった、先生に。

村本先輩と、キスしたこと……。


当たり前だけど、それを聞いても微動だにしなかった先生。

私は、急に現実を突きつけられた気がした。



「村本先輩なんて、キライ……。」


「は?なに贅沢なこと言ってんの?萌!」


「やだっ!」



私は走って教室に入ると、音を立てて椅子を引いて、自分の席に着いた。


キライ。

みんなキライ。

村本先輩も、女の先輩たちも、花ちゃんも。

そして、振り向いてもくれなかった、横内先生も。


机に突っ伏して泣いていても、みんな私がいつものように寝てると思ってる。

それはちょっとだけ、好都合だった。