逃げられるもんなら、今俺から逃げてみろよ。


挑発的に言う獅狼だけれど、獅狼の言う事は当たってて…わたしの力じゃ、獅狼を押しのけて逃げることはできない。


そんな力、わたしにはない。どれだけ手を振りほどこうとしても、暴れようとしても掴まれている手はまったく離れない。獅狼じゃなくても、わたしはこの状況をなんとかできる術を持ち合わせていない。




「……っ」


「夜が危ねぇことくらいバカなお前でもわかんだろうがよ」


「……ばかとか一言余計なんですけど」




その言葉さえなければ「ああ、獅狼の言う事は正しいな」って素直に思ってたのに。こいつはたった一言で全部台無しにする。


若干あきれつつ、獅狼の顔を見た。


…くっそ、なんでこいつ顔だけこんなに綺麗なのよ…。




「何」


「いや、何ってこっちのセリフ。いつまでこの状態なわけ?」




もうわかったから離してくれない?、と言えば獅狼はわたしの顔をじっと見つめてきた。


幾多の乙女ゲームを攻略してきたわたしでも、こんなリアルな状況慣れてるわけない。


よってさっきから体の至る所が熱くて恥ずかしいんだけど。何でこいつは平然としてんの?むかつくな…。


ある意味今が夜でほんとよかった…。