☆*:星降る夜に鈴の音.:*☆誠の華



…私たちは鴨川を挟んで北上することになった。

私が加わった近藤隊が向かうのは
山条小橋 『池田屋』。


念には念を入れて 見つからないように
通りの端から順に捜索していって
池田家に着いたときには


星空に輝く上弦の月が浮かんでいた。

月が細く私たちを照らす。
周辺を走り回った私が、池田屋の前に
戻ってきたとき。




「こっちが当たりか…まさか
藩邸のすぐ裏で会合とはなぁ」

新八が声を低くしてつぶやいた
総司が 飄々として答える。



「俺は最初からこっちだと思ってたけど?奴らは今までも 頻繁に池田屋を使ってたし」

「だからって、古高が捕まった晩に
わざわざ普段と同じ場所で集まるか?
普通は場所を変えるだろう 常識的に考えて」


その話を聞いて 私はほくそ笑みながら
鈴を鳴らして2人に近づいた 。

『じゃぁ、奴らには常識がなかったんだろうねぇ。実際こうして池田家で会合をしてるわけだし?』


私と 新八と総司は 世間話のように
軽い口調で話した。そんなに
緊張感は無い。


「鈴、会津藩とかはまだ?」
平助が私に聞くが 私はフルフルと首を振る。


『まだ、この辺には誰もいねぇみたい』


返答すると 平助は顔ゆがめて舌打ちをした。

「日暮れ頃には連絡したのに…まだ動いてないとか何やってんだよ」


「落ち着け、平助 あいつらは来ても来なくても一緒だろう?」


新八が 冷静に言った、平助は頷きながらも 不満があるようだ。


『私たちだけで突入というのも
一興だなぁ。』


私は クスッと笑って平助を見上げると
平助は顔を赤くしながらも、笑い事じゃねーぞ。と、言った




だけども、いくら待てども
お役人たちは現れなかった。


過ぎていく時間。傾いていく月
その差が開くたび 私はイライラしながら
池田家の窓を見上げた。



『さすがに遅すぎないか?』

私が沈黙を破ると 総司は近藤
さんを見つめて 真顔で問う。


「どうします、近藤さん
これでみすみす逃げられちゃったら
俺たち無様ですよ?」


それまでずっと沈黙を守り続けてきた
近藤さんは、不意に立ち上がると
眉間のシワを深くして 低い声で
言った。




「行くぞ」



ガタンッと 池田屋の戸を蹴り飛ばす
近藤さんは 先陣を切って池田屋に踏み込んだ。

その後ろには ぎらついた目をしている
総司と鈴。


さぁ、行こう。




「会津中将お預かり浪士隊、新撰組。
詮議のため 宿内を改める‼︎」




大きな声が 池田屋に響き渡って
忙しく働いていた 人たちが
キャアッ、と悲鳴をあげる。



「わざわざ大声で討ち入りを
知らせちゃうの すごく近藤さんらしいよね」


沖田総司が、声を弾ませて
中に入っていく。

『いいじゃないかー‼︎正々堂々
名乗りを上げるのは嫌いじゃない。
やはり討ち入りは正々堂々じゃねえと』


その後を 雅な笑みを浮かべて
鈴の音を鳴らしながら 華山 鈴が
入っていき、美しく荒々しい
手つきで刀を スラリッと抜いた。



「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが、鈴の正々堂々なわけ?」


永倉新八と藤堂平助が どこか楽し
そうに笑みを浮かべた。


『それをひっくり返すのが楽しいんじゃないかー!分かりきっていることを
聞くなよ、平助‼︎』



鈴が嬉々として 言うと 二階から
浪士たちがなだれのように 降りてきた


「御用改めである‼︎手向かいすれば
容赦なく斬り捨てるッ」




近藤勇の声が 池田屋に響いた。