次の日、屯所は朝から忙しかった
当たり前だ 今日の夜に御用改めが実行されるのだ。
皆気を引き締めて 巡察に行ったり
道場に稽古しに行っていた。
私は朝から刀を研いで 人が切れる
ようにする。 けれども昼からは
予定がない、本当は非番だから
ごろごろ したいんだけど…
さすがに気が引けるというか。
なので…
『総司 稽古に付き合ってくれないか』
「んー?いいよ。」
稽古に誘うと総司は 意外そうに
私を見た。 私は鈴を鳴らしながら
背後を振り返って 見上げる
『なんだよ 』
「いや…鈴、最近頑張ってるなーってさ
隊務だって言われた事はこなしてるし
鈴もそろそろいい感じに馴染んで…」
『あたし、アンタたちの仲間
じゃないよ』
総司の言葉を途中で切って前を向く
思いのほか冷たい言葉が出た。
けれどこれでいいのだ、馴れ合いは
良くない 出て行くのが面倒になる。
「ふぅん…じゃぁ鈴は僕のこと仲間だと思ってないんだ」
総司は 心が読みにくいような 声音
を出した。
嬉しそうでもないし
落胆もしてない。
けれど オモチャを取り上げられた
後のような 沈黙が続いた。
やがて 外の広間で 持ってきた木刀を
一本総司に 渡して もう一本を
握る
『何か文句、あるわけ?』
ザリ、と足を引いて構えると
総司も構えて 殺気を出した
「鈴ってさ なにを求めてるの?」
「どうして 新選組にいるのさ」
ガキイッッ‼︎‼︎ と、木刀が交わる音が
庭に高らかに響いた。
『私はっ…!近藤さんに住まわして
もらってるッ』
鈴を鳴らして 振りかぶると
避けられた、睨んで舌打ちをする。
『私はッ!近藤さんの力になれる
ことをする‼︎』
「鈴?」
ガキッ ガキイッ…
打ち合いの中で 総司が笑った
「鈴、鈴はなにを求めてるの?
質問に答えてよ…ッ」
『わ、私はッ』
私は、何を。
私は何を求めているの?
「理由もないのにここに留まるわけないでしょ?ホラッ…」
総司が三段突きを繰り出して
すべて 受け止めて跳ね返す
『私はっ…』
何を求めているのだろう?
考えて、出てこなくて 悲しくなった。
ピタ、と体を止めて 背の高い
総司を見上げた。
『何を求めている…?』
「…鈴ってさー」
総司は面倒くさそうに 木刀を
肩に トン、と置いた。
「遠慮し過ぎなんだよね」
『遠慮なんてしてない、自由にしてもらってるよ』
「…本当に?」
総司に顔を覗き込まれて 顔を背ける
私は自由だ、何者にも染まらない。
「鈴って、気高げにいて 凛としてて
残酷なほど 純粋に人を殺すよねー…
自分の思い、一つでさ」
『あぁ、そうだよ 私は人斬り。
自分の思いだけで人を殺す』
「鈴、本当は 誰かに認めて欲しいんじゃないの?」
総司は 目を細めて 私の心を見透かした
ように笑って言った。
『何故他人に認められなければ
ならないのだ?失笑千万だな』
ふん、と鼻で笑うと総司は
真顔になった。
「自分の両親を殺した奴を殺して
誰かに認めて欲しいんでしょう?
お前は強い奴だって…親の分まで
戦ったってさあ…?」
ドクン、と自分の血が逆流したような
気がした。
昔、私は両親に生かされた。かばわれた
力のない私は逃げた。 必死で 母の
言われた通りに 刀を握りしめて。
『私は、誰かに認めてもらわなくても
強いはずだ』
「へえ、確信あるの?」
ギリ、と奥歯を噛み締めた。

