しばらく座敷で宴会をしていると
土方に ちょいちょい、と手招きをされた
なんだろうと思いながら横に座って
聞いてみる
『なんか用?』
「潜入するにあたって、のことだ」
土方は なぜか 不機嫌そうに眉を寄せながら 私を見ずに 酒を飲みながら言った
「もし何かあったら、俺のところに
手紙をよこせ 万が一の場合の場合に備えて 幹部連中の誰かが客として 行くから
その時に言うのもいい…ただし、それが安全だと思える状況ならそうしろ」
『うーん…ようは見つかりそうになるようだったら 手紙よこせってこと?』
「そうだ」
首を傾けて言うと、土方は 窓の方に
視線を移した。
『ん、わかった』
用は済んだな、と判断して
よっこらせ、と重い着物をすりながら
立とう、とすると クイ、と土方に
引っ張られて 転びそうになる
『!…おい、てめえ なんのつもり』
ギロ、とにらもうとすると 土方が
はっ、としたように手を着物から
離した。
「…なんでも、ねえや」
『…はあ?…わけわかんねー』
土方の 瞳の奥が 揺らいでいた。
わけが分からない、そういうような顔で
端正な顔立ちをした瞳を苦しげに
ゆがめていた。
まるで押さえつけるような、そんな顔。
怒ろうとしていたのが 急に土方が心配になった。 顔覗き込むと 急いで顔を背けられる
「もう、あっちいけ」
『…、なんだよお前が引っ張ったくせに』
頰を膨らませて ぷい、と顔を背ける
と土方は 低い声音でつぶやいた。
「おい」 『なんだよ』
そして私を見つめた
「もっと…言葉遣いを直せ」
『はあ⁉︎イキナリそれっ…』
イキナリそれ?大きなお世話‼︎
言い放とうとすると土方は
私を見つめていたのに 目線を酒に移して
言った。
「もったいねぇ、せっかく…ンな綺麗
な着物着せてもらったんだ…口調直せば…もっと良く見える」
『え…。』
予想以外の言葉をかけられて
唖然と土方の横顔見つめていると
土方はみるみるうちに鬼の副長の顔に戻って、言った。
「あっちに行け 邪魔だ」
『っ…あっそ!!じゃあな‼︎』
プンプン怒りながら土方のそばを離れた
その後も、土方は少しだけ不機嫌だった

