『イヤッ…』
布団蹴飛ばして私はバッと起き上がった
自分の吐く息が耳に聞こえる。
手を見た、何も無い。
私は思わず ハァ…と息を吐いた
悪趣味な生々しい夢だったと思う。
どうしてあんな夢を。
眠れなくて私は自分の部屋を出た
廊下を少し歩いていると縁側に
美夜が、ちょこん座っていた。
美夜はいつも私と一緒に寝ているのに、
今日はどうしたんだろうと思って
美夜の横に座り ふわふわの白い
頭を撫でた 。
夜空を見上げると 上弦の月が
細く輝いていた 妖しい月明かり
に目を細める。
『ねー、正夢ってさぁ
本当にあると思う?』
後ろの明かりのついた部屋に
問いかけると、部屋にいる人物は
訝しげに 言った。
「…なんだ、いきなり」
『いや、別に気にしなくていいや』
美夜を抱き上げて そのぬくもりを
感じていると 土方の部屋の戸が開いた
そして、足音が近づいてきて
私の横に座った。
「どうした、帰ってきてから浮かねえ顔じゃねえか」
土方は夜空を見上げながら言った。
じつは、眠る前から なんだか胸騒ぎ
がしていて… 沈んでいたのを土方は
お見通しだったらしい
『…人を斬る夢を見た、私は
な…新選組の奴らを本気で切った事は無いのに 夢で見たそいつの傷は
私がはっきりと殺意を持って斬りつけた傷口だった。』
仲間、と言いそうになって 慌てて
新撰組、に直す。
土方はそれに気づいているのか
再び私に聞いた。
「それで…正夢はあるかと聞いたのか」
土方は、胡座をかきながら後ろに
手をついて 私の顔を見ずに言った
「それでもお前は人斬りか?
そんなの気にするお前じゃねぇだろう」
『…人斬りは無くして困る物まで斬らないもん…妙に生々しかったんだ、手についた血とか』
下を向いて 俯きながら言うと土方は
はあ、とため息を吐いた。
「夢は夢だ、深く気にすること
じゃねえよ」
『だが…』
「気にすんな、副長命令だ」
反論しようとしたが、土方が
ガッと私の頭を掴んでわしゃわしゃ
荒く撫でて 言い放った。
『わかった…』
その大きい手に 安心して、私は
美夜を抱きながら立ち上がって
自分の部屋の襖に手をかけた。
そして 後ろを見ないで言った
『その、人 土方だったんだよ』
「ふん、受けて立ってやろうか?」
その返し方に、少し笑いながら
自分の部屋に入って、布団に入り
瞳を閉じた。

