「あ、おはよう 鈴」


道場で総司が木刀で素振りをしながら振り向いた、元気なやつだな
と、思いながらも話しを持ちだした。


『おはよう、 なあ 今日はなにをやればいい?』


総司は木刀をさげて道場を見回して、言った。


「今日は三番隊と一番隊の道場稽古かな、鈴は適当に戦っていいよ」


と、言われて首をかしげた。
適当に戦うって誰と?



「華山、手合わせ願う。」



低い声が横からして向くと、斎藤さんが気配もなく立っていた。


『うん、お願いします』



総司に木刀をわたされ ぎゅう、と握りながら空いている隙間に斎藤さんと向かう。



総司がニコニコしながらついてきて


「審判するね」



と、言った。
頷いて、斎藤さんと向き合い
静かな睨み合いが続いた
この人は迫力がすごい。
目が本気で殺そうとしてるし
なにより隙がない。



それならこちらが隙を作る
まで、と斎藤さんをニヤリと笑う



「なにが、可笑しい」



斎藤さんは私を睨み据えながら低い
声を出した



『これが、私の技なんです ふふ…』



嘲笑うように微笑すると斎藤さんが私の間合いに ダンッ と踏み込んだ


…ッ 来たっ



妖しい笑いを顔に張り付け、鋭く
振られた木刀をまるで素早い
狐や猫のように、するり
と 避けて、 キラリと目を光らせる




『タアァッ…!』


木刀を構えて斎藤さんの首に一線入れた
まるで、誠の刃のように木刀が
通る。きっと私の十六夜だったら
血がまるで華のように咲いていた
だろう。



けれども これは白刃ではなく
木刀。




「…っ」





斎藤さんの首から一筋の血が垂れた。


「一本」


総司が目を細めながらよく通る
声で審判の判定をつげる



両方、礼をして 私は斎藤さんに
近寄った。



『大丈夫ですか』


「…ああ」

斎藤さんは短く答えると、袖で血を拭き取った。


「さっきのは凄いね なんだか ツキの進化したやつみたい。」


総司が笑いを含んだ顔で私を賞賛した、私はそれを妖しい笑みで返す



『まあね、人間の弱い所を切るのが人斬りだから』


鈴狐には、鈴狐の技がある
私は 人の首を断つのが上手い。



「その技は、見たことがない。それに足さばきも…」


斎藤さんが言うので私はそちらへ振り向いて笑う


『自己流ですよ、血と涙を集めて出来た。』






「華山は、不思議なやつだな」


一くんが鈴の出ていった道場の戸
を無表情に見つめて言った。


「うん、掴み所がないよね
なんて言うか 怖いぐらい強いんだけど
儚すぎてすぐに消えてなくなりそう」



「それに、何故笑っているのに 悲しげに見えるのだろうか」


一くんは 木刀を持ち直して 素振り
を始めた。


「わかんない、いつか分かると良いね