ドタバタと廊下を走り、洗い立ての髪はまだ雫が滴っていた。
それにも気に留めず 私は灯のついた
土方の部屋の障子を スッパーンッ
と、勢いよく開けた
『土方ぁー!!』「 ⁉︎ッ なっ、いきなり入ってくるんじゃねえっ 閉めろ‼︎」
前を見ると 土方は着替えていたようで
濡れた 着物の上半身を脱いで 手ぬぐいを持ちながら怒鳴られた。
剣術で鍛え上げられた女の私とは違う体が目を引く。
かろうじて下はまだ脱いでなかったようで、ビックリしながらまた障子をしめる
『す、すまん』「…たくっ…だからいつも声かける習慣をつけとけと 何度も言ってんだよ、馬鹿。」
土方はひとしきり愚痴ると
ため息をつきながら 続けた
「…どうせオヤジの体見て気持ち悪いとか思ってんだろ、俺はまだ二十代だからな」『⁉︎ い、いやそんな…つーか!見てないから!体なんかっ』
本当は 見てしまったけれど、否定を
しておく。
けど、綺麗だったな。…灯に浮かぶ身体に目を惹かれてしまった。思い返すと、土方の髪は黒々と濡れて 灯を照り返していた。
無駄な贅肉が無くて、筋肉質で、スラリと高い身長と足が、なんだか
しなやかな 黒い獣を連想させるものだった。
『…⁉︎』
なんで そんなこと考えてんの!
消えろ‼︎ と、頭に浮かぶ土方の
身体を掻き消す。
「入れ」
幾分か待つと、土方の身支度が
整ったようで 声をかけられた。
中に入ると 土方は 文机の前の座布団に座って こちらに身体を向けていた。
前髪が前に垂れていて、なんだか若く見える。いつもは 長い前髪を後ろに倒して
額を出しているから 新鮮だ。
肩には 髪ががまだ乾き切らないらしく
白い手ぬぐいがかけられている
垂れた前髪の隙間から 土方の目が
こちらを見つめる、 なぜだか
いつもより妖艶で 私は居心地が
悪くなった。
「要件は。」『…えーと、まずさっきはすまんかった。…それと…ありがとうございました、助けて いただいて。』
いきなり敬語になったので 自分でも
ナンダコレ、と思っていると土方は
小さく苦笑した。
「…なんでいきなり敬語だ?気持ち悪ぃな、似合わねえよ。」『うぐ…』
その通りだ、と思って沈黙していると
土方は私に 座ったまま 少しだけ近寄った。
「お前、髪が濡れてる」
くくってない 下ろした黒髪は
腰まで長く、雫が 着物にポタポタと
落ちているのがシミになってる
その洗い立ての黒い髪を、土方の
指が 1束すくいとった。
「…拭けよ、風邪引くぞ」
『まず、土方に謝らないと、
と思って…』
そう答えると 土方は
ふい、と目をそらした
「……透けてる」
『なにが?』
「襦袢。濡れて肌に引っ付いてる
それに、お前サラシ巻いてねえだろ」
『ぎゃあッ⁉︎⁉︎』
びっくり仰天して 私は土方の手から
抜け出し 部屋を飛び出して 自分の部屋に入った。
そして 自分の姿を鏡で見ると…
髪は濡れて、襦袢は水滴を含んで
肌色が滲んでるし、なにより体の
線がくっきりと見える。
かあぁ〜〜…っと顔がみるみる
赤く染まった
『…土方の馬鹿‼︎‼︎‼︎早く言えよ‼︎
つーか見ただろ!馬鹿あああ‼︎』
「うるせぇ!自業自得だ‼︎
それに、直視してねえよ‼︎」
『でも見てるだろ!…くそ…』
部屋の中で 近くの土方の部屋
に向かって怒鳴って、部屋の中で
恥ずかしさで悶えた。
でも、土方と話して 安心した
嫌われてなかったのだ。
私は むくれながらも 髪を
手ぬぐいで拭き始めた。

