「はあっ…はあっ…鈴ーーッ⁉︎…
どこだー⁉︎ いたら返事しろーッ‼︎」
土方は 雨に濡れて 落ちてくる前髪を掻き上げながらよく通る声を響き渡らせて周りを見渡した。
自分の持っていた傘は強風にあおられて川に落ちちまったし…アホか、俺は。自分に悪態をつきながら必死に走っていると赤い番傘が 道の端っこに転がっていた
「…。」
見覚えのある赤い番傘に 近ずき、雨で霞んだ目をこすりながら それを拾い上げた
赤い番傘には 手に持つところに鈴の絵が描かれていた。確かこれは前、鈴が嬉しげに買ってきた番傘だ。
男装していると言うのに赤い番傘はおかしいだろ、と言っても 鈴はこれがいい。と言ってずっと置いていたのを思い出す
その傘がここにあると言う事は
鈴に何かがあったということだ。
「くそッ…」
傘をたたんで鷲掴みにしながら
また 稲光がする道を走った
どこにいるんだ
「 鈴ーーッ‼︎‼︎ 」
返事をしてくれ
「はっ…… はぁッ…」
頼むから
「どこだよ…」
ものすごい稲妻の音が 鳴り響く中
土方はそれさえも耳に入らなかった
頼むから
無事でいてくれ。
心の奥底にしまったはずのモノが
また出てきそうになって。土方は
それを煩わしくも、哀しくなった
「鈴ーーッ…」
いつもは思わねえ 神様っつーもの
に 心の中で手を合わせた。
頼むから、鈴が見つかりますように。
あの時みてえに、 居なくならねえように。