土方side


「ただいま戻りました。あーッ、もう びしょ濡れなんだけど」


総司が悪態をつきながら広間に調達してきた食料をドカッ、と乱雑に置いた
それを斉藤が咎めるような目つきで睨みつける。

「総司、行儀が悪い。それに食べ物粗末にするな」
「はいはい。」

土方が2人を見ると 総司が言うように2人は見事なほどのびしょ濡れだった。
不思議に思いながら 手ぬぐいで顔を拭いている総司に問いかけてみた


「なんでそんなびしょ濡れなんだ?
傘でもさしゃいいだろう」
「土方さんはほんとにバカなんですか?」

問いかけた瞬間総司に 丸めた手ぬぐいをぶつけられて ピキッ、と土方の額に青筋が浮かんだ


「てめっ…」


「雨音で気づかないんですか。傘があってもここまでびしょ濡れになるんですよ」


怒鳴りつけようとすると 総司は懐からついでに買ったであろう笹餅を取り出して
頬張った。呑気な野郎だ。

思わず脱力して、怒る気力が失せるとまた1つ疑問が浮かんだ。



「…酒屋は確か テメェらが行った店より近かったよな?鈴はまだ帰って来てないんだが」
「え? …それは遅すぎますね。
もしかして浪士に襲われたのかもしれないですね、俺 迎えに…」


「いや、お前はまだ風邪が治ってねえんだろ 俺が行く。 お前は斎藤と料理しとけ。」

総司が 小さく咳をしながら 傘をさしだしたので それを制すと 総司が えぇ…?と不機嫌そうに俺を睨んだ


「いいですよ、俺が行きますから土方さんは過保護すぎるんですよ」
「副長命令だ」



ため息をつくように俺は言うと
総司が むぅ。とほおを膨らまして
斎藤と一緒に材料を持って勝手場に
消えていった。


土方は 傘を取り出して 酒屋に向かおうとすると 美夜が 人型の姿で 走ってきた


「…!美夜、お前こんな昼間っから出てきて大丈夫なのか?」
「今はそれどころじゃありませぬ、土方様!…嵐の中主人を探したのですが
見当たらないのです!」


美夜は 濡れた髪をブルブルと振るいながら 土方に訴えた 土方は事の重大さを感じて 眉を寄せた

「鼻使えないのか?耳は?」
「こんな雨の中ですので使い物になりません…あぁ!主人 どこにいらっしゃるのでしょうか…もしかしてどこぞの浪士達にでも襲われているのだとしたら…
いいえ、主人に限ってそんな…」


美夜は 雨に濡れた頰にまた涙を流して頭のてっぺんの耳をぺたん、と下げた


「…お前は屯所で待ってろ、俺が探してくる。そんな姿だから簡単には外に出られねえだろ」「…土方様」


わしゃわしゃとびしょ濡れの頭を撫でてやると、美夜は深々と一礼した。
そして猫の姿に戻り 屯所の中へ隠れて行った。


土方は滝のようなの雨の中 強い風に
吹かれながら走った 鈴の名前を呼びながら息を切らせて 酒屋の近くまで 全力疾走した。