ある朝の朝食が終わった時
土方が大広間で茶を飲みながら
つぶやいた。

「最近、屯所が埃っぽくなってねえ
か?」『あー、確かに最近思うなぁ
平隊士の部屋とかすごいんじゃない?』


私がしみじみと 言いながら
美夜を撫でると 美夜がするり、と
腕から抜けて 庭に出て行った。


『大掃除、する?』
「それが出来たら もうやってるよ」

総司が けほっ、と咳をしながら
団子を食べつつも言った。

「平隊士は 忙しいし、それに
隊務の時間を変えるのも面倒だよな」

平助が 庭を見ながら言うと新八は
苦笑しながら言った

「嫌がるしな、アイツら」

『ふーん』

相槌を打ちながら 茶を飲むと
近藤さんが立ち上がり 口を開いた

「それでも、皆が心地良い場所を作らないとなぁ…トシ、今日を大掃除の
日にすることは出来んか?」

「…左之、新八、平助。
平隊士を広場に集めて 今日の
隊務は掃除だ、って言ってこい」


おう!と、三人が答えて
早速テキパキと 動き出す。
土方は隊務を変えるために思案
しているらしく いつものように
腕を組んで考えている。


すると テキパキと動き出す幹部
達に近藤さんの側にいる男が
口を開いた。


「さすが、近藤局長。平隊士たちまで配慮なさるなんて懐が深いですわぁ」

「む?いえいえ…そう言われるのはありがたいが、当然のことをしたまでですよ」

いきなり持ち上げられた近藤さんは
素直に照れて頰をかいた。
そんな様子を見た私たちは
それぞれが、それぞれに顔をしかめる


みんなの目の前にいる男は
伊東甲子太郎参謀。人の目を見る目が
意地悪そうで、へつらうように
唇を微笑ませている。


この人は新に新選組に入隊した
幹部の一人だ。この伊藤さんは
平助が紹介して入ってきたのだが
北辰一刀流の先生らしい。
なのでそこそこ強い。


初めて伊藤さんを紹介された時も
近藤さん以外みんなは…もちろん
私もあまりいい顔はしなかった。


近藤さんと伊東さんが席を立つと
小声で不平や不信を漏らす。


「伊東さんは尊王攘夷派の人間と聞いたが、よく新選組に名を連ねるようになったものだな」


斎藤さんが 淡々とした表情で
言うと 私も口を開く。


『…近藤さん疑ってるわけじゃないけどさ…つまり長州の奴らと同じ考えなんでしょ?そんな人と私らとで喧嘩しないかな。』

私が 暗い表情で言うと 土方が
ため息をついたが 口にするのは
不平ではなかった。


「佐幕攘夷派の近藤さんと
攘夷、の面では合意したんだろう」


確かに外国を打ち払いたいと言う
のは同じかもしれないけれどやはり
根っこが違うのはみんな気づいている
ようだった。


重い空気が部屋を覆ったが
それを打ち壊したのが飄々と
した総司だった。


「でも俺は、伊東さん好きじゃないなぁなんか五月蝿いし。やたらと俺たちに
絡んでくるし」


絡む、というのは 愛想を振りまいて
来ることだ。総司もそれを嫌がっているらしい。


さっきまで働いていた原田が
それにつられて言った。


「まぁな、嫌な目をした奴だとは思う」
「だよな、人を見下してるって
いうか…」

新八までため息を吐いて原田の
意見に同調した。私自身も好きじゃない
あの人はクセが強すぎる。


「近藤さん、なんだってあんなの気にいったんでしょうね」


総司が 戸を睨みつけて言うと土方は
不機嫌そうに眉を寄せて立ち上がる

「んなこと、知るか。どうせ口先で丸め込まれたんだろう」

『近藤さん優しいからなあ』

私が苦笑すると 土方が それより、
と話を進めて 大掃除を開始した。


大掃除は随分と長くして 屯所は
凄く 綺麗になっていった。



「…屯所が、狭いな…そろそろ変わり時か」


綺麗になった屯所の中を土方は見回しながら言った。確かに人数は多くて 平隊士は雑魚寝状態だか。

『広いところに移れるならそれがいいなー…伊東さんに会う回数も少なくなるだろうし』

「いい考えですねぇ、土方さん。
で?僕たち新選組を受け入れてくれる場所なんて心当たりあるんですか。」


総司が軽い口調で尋ねると土方は
少し笑って返答した

「西本願寺」「あははっ絶対に嫌がられますよ!…でもまぁその反対を押し切るのも土方さんらしいですけど」

なぜ嫌がられるのか、と私がキョロキョロしていると 斉藤さんが返答した

「なるほど、あちらの寺なら広さは足りるでしょう…それに西本願寺ならいざとゆう時にも動きやすい。
ですが 寺の住職はどうなさるおつもりでしょうか。」


斉藤さんの言葉は
私にも半分だけ理解できた。
この屯所がある壬生は京のはずれに
位置している。巡察に出るにも少し不便な場所だ。しかしそんなに嫌がられるのだろうか。


『そんなに嫌がられるの?』


質問した私に斉藤さんは 淡々と
した口調で返した

「西本願寺は長州に協力的だ
何度か浪士をかくまっていたことがある
副長の案で行くと その長州のよりどころが1つなくなることになる。さすがは副長…素晴らしい案だ」

『ほ〜…なるほどねー でも長州の味方してる場所なんか居心地悪そう』


「…向こうの同意を得るには決して容易なことではないだろう」

「ま、粘り強く、なんとでもしてやる」

「なるほど。」


斎藤さんが ふむ、と頷いた。
何が なんとでもしてやる、なのか

「鬼の副長の出番だよ?」
『あー、そういうこと』


きっと何か策略があるのだろう
総司が楽しそうに笑っていた。