土方side

「寝た、か」


鈴の寝顔を見ながら 残った酒を
ちびちびと飲んでいた。
月明かりに映える白い頰、長い
睫毛…黙っていたらこんなにも綺麗
で、美しい。 先程の憎まれ口が
嘘のようだ。


鈴の寝顔を見ていると どうしようも
ない感情が掻き立てられる。


「はぁ…」

最近自分がおかしい、原因はわかっている だから苦しい。
酒の入った器を持ちながら 腰を上げて
島原の廊下の窓によりかかり
外を見ると 月が白く浮かんでいた
その下で花街の灯が揺れる



アイツは俺が嫌いだ。それにアイツも俺もいつ死んでもおかしくない。新選組はそれが大前提で入っているのだ…あいつが俺を好いていない時に鈴に想いを伝えたところで果たしてあいつは自分のものになるのだろうか? 鈴を捕まえる前、ふとした合間によく考えた。


答えは 否。 アイツは誰のものにもならない、俺には届かねえ高嶺の花だ。
気高くて 儚くとも強く…戦う姿は
まるで狂い咲きの桜のように舞う。


あいつに恋心などあるものかと
問いただしてえくらいだ。

土方は 眉をひそめながら器に入った
酒をまた飲み、考える

しかもさっきのような無防備な発言。
『膝枕してやろうか?』…アホか
お前殺す気なのか、俺を。

俺の気持ちなんて気づくはずがない
平助だって、おそらく総司だって
恋心を抱いているのにその中で
隠し通すのがうまい俺が理性で
鈴にこの気持ちを伝えるのを止めるだろう。ああ、損な性分だな。

土方はわずかに苦笑した


遊びでからかうのはまだ大丈夫だ
だが、その先に踏み入ることは
俺には出来ねえことだろう。

俺は別にこのままで良い
避けられるくらいなら、関係がこじれるくらいなら…自分の気持ちに蓋をすることを俺は選ぶだろう。

俺は鬼にでも、なんでもなってやるよ。
後悔なんて、しねぇ。こうすれば
アイツを新選組に止めておける。


だが心の中の自分が 問いかけてくる

テメェは、あいつが自分じゃない男
を愛した時に 何も思わずにいられるか?
後悔なんてしないか?…と。

まあ、腹は立つだろうな
そんで 多分2人を祝福すると思う。




後で自分の心に穴が空いてんのに
気付いて、たまらなくなるんだろうなぁ






考えると 苦しいもんだな
悪い考えばかりが浮かんできやがる。


テメェは… 誰のものにもなってくれるな
と言えたら どれだけ楽だろうか。









「この気持ちは、消えてくれんのか?」


土方は 小さく夜空に問いかけ
少し酔いが回っているらしい自分を
苦笑しながら 部屋に戻った。