「鈴さん…鈴さん」


横で可愛らしい声がする。
薄っすらと目を開けると 眩しい
光が目を刺した


『う…ん?』 「起きましたか?」



目を瞬かせると 心配そうな杏里ちゃんと
笹舟さんが目に飛び込んできた。



『あっ…』


布団から這い上ると 着物は寝巻姿に変わっていた。周りを見ると ずいぶんと女らしい部屋で寝かされていた。



『えーと?…』

「鈴さん‼︎ほんま起きてくれて嬉しいわぁ…死んでまうかとおもたんどすえ。」

「杏里、鈴はんは傷を負うてないから
いけるー、て お医者はんゆうたやろ?」

「そやけど…」


笹舟さんが 笑って言うと
杏里ちゃんは 頰を膨らせた。


『あたし…助けられた?』


「へえ、道で倒れはったから。」


笹舟さんが ふわり、と笑って言った。
ああ、私は池田屋から逃げ出して

行くところがなくて 行き倒れしたんだった。自分でも情けないと思う…



「あの、何があったんどすか?」

杏里ちゃんは 何かがあったのを感じて、おずおず と 聞いてきた。


『…裏切ってきた』
「…新撰組を…どすか?」



『ああ』




『元々、手に入れられないものだったのだ。もう、いい。諦めた』



ゴシ、と自分の目を袖で拭うと
笹舟さんがため息をついた


「諦めてる…というより、無くしてしまった…やね…」


私は、居住まいを正し 二人に頭を
下げた。



『…本当にありがとう、もう会えないと思うから…ありがとう。』



「鈴さん!どこか行くんですか」


杏里ちゃんは 泣きそうに なりながら
私の手を掴んで引き止めた。


『…ここにはいられない』

「大丈夫どすよ!島原は広いし…
ここに居ていいどすから…どうか…」


私は、悩んだが 二人に詰め寄られて
渋々うなづいた。


『…分かった。仕事は、させてもらいながら ここにおいてください。』



『ただし、顔を面で隠して、仕事しますよ?』 「かまいまへん」「へえ」