☆*:星降る夜に鈴の音.:*☆誠の華


土方side

鈴が目の前の女の目を見つめた瞬間

かくん、と動きが止まった。


そして、呼びかけると鈴が俺の目を見た
そこには どこを見ているか分からない
燻んだ瞳があった。




うつろな、生気がすっぽ抜けたような瞳


「華山、鈴 刀を構えろ」



後ろの赤い目をした少女が
鈴の名前を呼んで、指示した。



すると、こともあろうか鈴は
こちらに 紅く染まった十六夜を
向けていた。



背中に嫌な汗が 流れる


「…鈴?どうした、の?」

総司が 訳も分からない。というような
顔をしながら胸を押さえて
鈴を見上げた。



「………。」



鈴は 無表情のまま、何も言わない

「華山、鈴。沖田総司を殺せ」




無機質な声が 少女の口から漏れると
鈴は 細く、美しい刀を振り上げた


「⁉︎…テメェッ」



ガシャーンッ‼︎


と 凄まじい金属音が部屋に響く。
ギリギリ、と刀を震わせながら 土方
は鈴の間合いに足を踏み入れた



「おい、テメェ‼︎鈴になにしやがったッ」

「ふははッ…術をかけたのだ。
さあ、ヤり合え‼︎潰し合わせろッ」


『…ッ』


鈴は無表情のまま土方を切りつけた
力強いひと振りに 土方の手は
ビリビリと痺れる


「くそっ…敵にすると一番厄介だなッ
お前はッ」『…』


鈴を睨みつけるのに、鈴には
この言葉は伝わっていないらしい。



『……。』


鈴は 後ろにヒョイッと、飛び下がって
刀を構えた。


「くるかっ…⁉︎」


鈴の、殺人高速首斬り。






ガシャーンッッ…‼︎‼︎‼︎




『……‼︎』「くそっ…たれ…危ねえ…」


案の定、首元を狙われて
命からがら受け止める


「オイ、いい加減起きろ‼︎鈴ッ」
「無駄なことだ」

男はせせら笑った


「行け」 少女がまた、言うと
鈴があり得ない動きをした。



跳ね返せない 俺の刀を受け流して
畳を蹴り、腰まで長い黒髪をなびかせ
横の壁を まるで忍のように走った。



「 くそっ‼︎」


鈴の刀が 総司に 振り上げられる。
その瞬間が 酷く ゆっくりに見えた。



自分は、どうするべきだ。



今できることは


鈴が斬れるほど近くにいる

だが、斬ってしまうと 鈴が
死んでしまうかもしれない



「鈴ッ…」




俺は、刀を投げ捨て
総司の前に出た、総司をかばうように
鈴に背中を向けた





すまねえ。







テメェは死ぬほど 後悔するかも
しれねえ。





新撰組副長である、俺を斬るなんざ。
夢であったことと、同じじゃねえか。






かと、言って女を斬るほど
俺はできた 男じゃねえ。





総司も、鈴も 傷つけはさせねェよ。


痛みを負うのは 俺の役目だ。





目を閉じると、ヒュンッと刀が
空気を斬る音が耳に残った。


ザシュ…!

「ぐ、あっ…ッ」
「…⁉︎土方さんッ‼︎」



背中に、激痛が走った。
総司の 苦しげな悲鳴が部屋に響く



バタバタっ…と血が畳に滴る



すると、カラ…ン…。と後ろで
手から刀がこぼれる音がする。



目をすがめながら 後ろを見ると
鈴が 愕然としながら 立っていた。


『土……方?』



抱きかかえた時に出したような
消え入るような 不安げな、声



「鈴、」『あ…ぁ…私…。』


鈴の赤く血が飛び散ってる頰に
すう、と涙が零れた。


絶望したように 鈴が目を伏せた



もう、だめた。そんな、言葉が
聞こえたような気がした。