「さぁ・・・、目覚めの時を迎えました。」


その言葉で私は目覚める。


「ふふ・・・、お初にお目にかかります、私、平野遙香と申します。


以後、お見知りおきを。」


レースがあしらわれた黒のワンピースを着た少女が跪(ひざまず)く。


しばらく訳が分からないまま目をぱちくりさせていると、少女、遙香が口を開いた。


「紗夏様、突然のことで訳が分からないと思われますが冷静にお話をお聞きください。」


「・・・・・・」


コクリと頷く。


「それではお話しますね。


まず、紗夏様がこの鉄道に乗車されたということは夏神村へ向かう決心がついた、と考えさせていただきます。


先ほど、手拍子が聞こえましたね?


・・・あれは幻覚を人為的に見せたものです。


ふふ・・・、あのような人物は本来はここに存在しません。」


「・・つまり、私が見ていたものはすべて嘘だと。」


「ええ、そういうことになりますね。


そして、沙捺様より新たな言伝がございます。


姉様、決心がついたご様子ね。


村へ着き次第、儀式の間へいらっしゃってくださいまし。


案内は遙香に任せるわ。


・・・・と。」


「・・・分かった。


行くよ、儀式の間に行くよ・・!」


「分かりました。


元よりそのつもりですけれどね。


それでは、こちらへお越しください。」


私は遙香の後をついてゆく。


列車は静まり返っており、私たちが歩く音が鮮明に聞こえる。


「それでは紗夏様、こちらをお通り下さい。」


列車の奥にある、扉を遙香が開き通るよう促した。


促されるがまま、私は扉を通った。


ズンッと空気が重くなる。


目を開けると壊れた民家などが目に入った。


「・・・ここは?」


「夏神村です。」


え・・・?


民家は壊れ、木々は腐り倒れ、道には腐った木や落ち葉などでもはや道ではなくなっている。


全体的にどんよりとしている雰囲気は10年前とは大違いだった。