幼いころの思い出に耽っていた。


「・・紗夏ちゃん、そろそろ宿舎に戻ろうか・・・?」


雅さんが尋ねる。


「・・・はい、そうですね。


体も冷えてきましたし・・・。」


私と雅さん、それに百合香とで宿舎に戻った。


宿舎へ戻る道中、私はある決意を固めた。


「それじゃ、夕飯の準備をしようか。


紗夏ちゃんも手伝ってくれる?」



「あ、はい。


わかりました。」



「あ・・・あのさ、雅さん。」


「ん・・・?


百合香ちゃん、なに?」


「私にも、手伝わせてくれない?


散々世話になったうえ、手伝いもしないなんて気が済まないから・・・。」


「うん、いいよ。」


雅さんはそう答え、指示を出していった。


何事もなく夕飯の準備ができ、食事をする。


もしかしたら、これがここで食べる最後の食事かもしれない。


私の下した決断は・・・夏神村へ行く。


雅さんたちの関係は断ち切ってしまうかもしれないけれど迷惑をかけたくないから。


私は早々に食事を食べ終わり、自室へ戻る。


改めて見渡す。


若草色の畳、茶色の箪笥(たんす)、淡い桃色の花瓶に入った桔梗の花。


私は朱色の大きい風呂敷に服などを包んだ。


明朝、始発の鉄道で夏神村へ向かう。


窓から覗く月は何だか何時もより輝いて見える。


フッと笑い、寝床へ就く。


今後の不安からなかなか寝付けない。


午後11時を回ったあたりでようやく眠りにつくことができた。