見上げると、そこには色とりどりに染まった紅葉が見える。

「わぁ・・・、今年もきれいになったな・・・」

そんな独り言を言いながら、私は境内の掃除を進める。
掃除をしているとふと、目に留まった木が一本。

”テルテル坊主”が括り付けられている木。

「さすが、紗夏(さなつ)ちゃん。

境内もきれいに掃除してくれてるねぇ・・・」

声のしたほうを向くと、そこには神封神社の神主さんの雅(みやび)さんが賽銭箱の前に立っていた。

「雅さん、こんにちは。」

「こんにちは。やっぱり、境内がきれいだと紅葉も映えるねぇ。

とてもきれいだよ。」

「ふふっ、そうですよね。

今年の紅葉は、例年に比べてかなりきれいに色が染まってますから。」

そんな会話を交わしつつ、私は掃除を進める。

「そういえば紗夏ちゃん。

面白いものでも見つけたのかい?」

「え?何でですか?」

「いや、僕が声をかける前、木の枝を見てたからね。」

「あ、はい。

テルテル坊主が木に括られてて・・・。」

「テルテル坊主か・・・。」

雅さんはそういうと、おもむろに宿舎へ戻り始めた。

「雅さん・・・?」

疑問をぶつける隙もなく、そそくさと宿舎へ入ってしまった。

「なんだろ・・・」

しばらくすると、雅さんが手に鋏(はさみ)を持ってテルテル坊主が括られている木の前へ来た。

すると、少し背伸びをし、テルテル坊主を吊っている紐を切ろうとした。

「あのっ、雅さん。

流石に切ってしまうのは・・・。」

「でも、首を括った人形だよ?」

「ですけど・・・。

今日は七五三日和ですから、参拝のお客様が付けたのかも・・・・。」

「ああ、そうかも。

・・・いや、そうだ。

2年前、大雨で七五三が台無しになった女の子がいたからね。

きっと晴れるように願ったんだろう。」

「ああ、なるほど。」

「多分ね。

・・あ、七五三で思い出した。

玉串(たまぐし)の榊が数本足りないんだ。

3、4本でいいから取ってきてくれる?」

「はい、わかりました。」

私は手にしていた箒を階段に立てかけ、雅さんから鋏を受け取った。

この神社は比較的、参拝のお客様が少ないので玉串も数本で済む。

私は鋏を巫女服の袂に鋏を入れ、榊が生えている鎮守の森へ足を進めた。


鎮守の森へ向かう途中の参道である女性に声をかけられた。