メモを見つめ全力で迷惑がっているオーラをかもし出したが、吉元さんは相手の気持ちは全無視する信念を持っているらしい。バシッと私の肩を痛いほど叩き、命じた。


「ここはもういいからさ、あんたのお父さん、第1駐車場に車移動して待ってるでしょ。
車戻ってさ、1時間後、受付に来て。
お父さんにもそう伝えてよ。

あっ、車いすは置いてっていいから」


吉元さんに背中を押され立ちあがったが
、言い忘れていたことを思い出した。これだけははっきり言っておかなければ、腹の虫が収まらない。

私は、吉元さんを見下ろすと強めの口調で歯向かった。


「吉元さん‼」


「華子(ハナコ)。
華子さんって呼びな」


吉元さんの突然の命令に、ほんの少し動揺した。


ハナコ?
そういえば、さっきの師長さんもそう呼んでいた。


「えっ?あっ、はい。
華…子…さん?
えーと……」


息を整え仕切り直すと、できうる限り自分を大きく見せたくて胸を張った。猫が敵を前に毛を逆立てる気持ちが、理解できる。


「時間内に病院、到着したんだから、今回の勝負は私の勝ちですよね。

これで、私のネットワークの結びつき分かりましたか?
リアルの関係よりネットの関係は劣るって考え、改めて頂けますか?」


私の背後にはネットの仲間がついている。そんな心強さがあるからか、自分でも驚くほど正面切って思ったことが言えた。


しばしのにらみ合いの後、華子さんは私から目線を反らすと、メガネを外しながら伏し目がちに静かにほほ笑んだ。


「そうね、ネットの関係もバカにしたもんじゃないわね。
見直したわ」


華子さんの負けを認め全てを受け入れた涼しげな声を聞き、スーと気持ちが晴れていく。これまでの無礼の数々も、今なら全て水に流せる、そんなどこかの神様のような清らかな気持ちになった。