カリス姫の夏

私は少し体をずらして声の主を見た。


そこには背が高くがっちりした体形の中年の男性が、パンツ式の白衣に身を包み立っている。


吉元さんがゆっくり振り向くと、男性は太く男らしい眉の間にシワを寄せ汚い物でも見るかのように目を細めた。


そんな表情、ヘッチャラなのだろう。さげすむような口調で、吉元さんは得意の憎まれ口を叩いた。

「あらー、総一郎。
久しぶりだね。
へー、ポケットに線入って……
師長になったんだ。

この病院の看護師不足も危機的な状態なんだね。
あんたが師長になるようじゃあねー」


「派遣でぬるーい仕事してるお前に言われたくないよ」

と男性看護師……総一郎さん。


そんな総一郎さんに、吉元さんは一枚のカーボン用紙を差し出した。


「これ、向こうの病院の指示表。
あたしはきっちり病院の指示守って働いてるよ。
派遣なめられたら困んのよね」


総一郎さんはその用紙をバッと奪いとりまじまじと見ると、目の前にいる知人を非難した。


「この指示表では酸素は経鼻チューブで2リットルでいくようになってるぞ。
患者さんが手に持ってるの酸素マスクだよな。

どうなってんだよ」


「あー、これねー。
鼻炎で鼻つまっててさ、口呼吸になってたからマスクにしたのよ。
酸素濃度計算してマスクで同じになるように流す量も決めてね」


「また、そんな勝手なことを」


総一郎さんはますます声を荒げたが、吉元さんはそんな非難、痛くもかゆくもないといった表情を崩さなかった。