私は携帯の電源を切る振りをしながら、とりあえずみんなに報告しようと『ナイトの国』に入った。すると、私の勝利を信じてか、ログにはWやら8やらが乱立している。
過去ログを確認せずとも、病院に連絡してくれたのがここの仲間であることは分かる。
お礼は家に帰ってからゆっくりしようと、私はスマホの電源をおとした。
ふと、高橋さんのことを思い出す。車いすのシートに視線を移したが、そこに高橋さんの姿はない。
キョロキョロ見回すと、少し離れた外来のシートに座りなおしている。その表情は横に立って一緒に会話する吉元さんよりもよっぽど元気だ。
車いすと一緒に近づき、私はずっと抱いていた疑問を吉元さんにぶつけた。
「吉元さん、高橋さんって元気そうですよね」
「元気だよ。
来週退院予定だしね。
一緒にこの病院来るのもこれで最後かもね」
と、吉元さんは言う。
「だったら、高橋さん別に酸素しなくってもよかったんじゃないですか?
酸素無くなったら命に関わるみたいな事言ってましたけど」
「ああ、これねー。
高橋さん、寝ると酸素飽和度、下がるんだよねー。
いっつもなんだけど。
あんた、なんにも分かってないで偉そうに言うけど、あたしは必要ない処置はしないよ。
あたし達ナースは患者さんの命預かって……」
吉元さんは私と対面し、人を指差しながら説教をする。彼女の人差し指は指揮棒のようにリズム良く上下に動いた。その時、吉元さんの背後から男性の声が聞こえた。
「おい、華子。華子かよ」
