駐車場の入り口には10台近くの車両が並んでいる。そして、その車達は微動だにしない。
「お父さん、なんで?
ねえ、なんで入れないの?」
明確な回答が欲しくて尋ねたが、お父さんは「さー、なんでかなー」と頼りない返事をするだけだった。
「緊急車両に対応してるのよ」
冷酷な吉元さんの声に、振り返った。
吉元さんは私に顔を向けている。嬉しくてしかたないという目を、重そうなメガネで隠して。心の中では手を叩き、大爆笑しているのだろう。
「どういう……意味ですか?」
と尋ねる私の声はか細い。けれども、説明する吉元さんの声はピンポン玉のように弾んでいる。
「来てたでしょ、救急車。
あんなに何台もいっぺんに来たら、正面の救命入り口だけじゃ間に合わないのよ。
だから、裏側の入り口も緊急対応用に開けとくの。
一般車両は一旦止めてね。
まっ、しゃーないよ。
救急搬送が全部終了するまでの辛抱だからね。
10分もかかんないから、それまで待つしかないさ。
人命第一ですからねーー」
ああ、そうか。
そりゃあ、そうだよね。
こんなつまらないカケや、私のちっぽけなプライドなんて誰かの役に立つ訳でもないんだし。
シートの背もたれに背中をつけ、深く座りなおす。
口からは、フッと自虐的な笑いがこぼれた。
あーあ、負けた、負けた。
ゲームオーバー。
面倒だから、いっそリセットボタン押しちゃおっかな。白旗上げて。
帰ったら『ナイトの国』のみんなに謝って、お礼言って、愚痴って。ネットの中で言いたいこと言ったら、気持ちに折り合いつけよう。
別に、平気。大したことじゃない。
負けるのなんて慣れっこ。今にはじまったことじゃないんだし。
