環状通りに戻り、後ろを見ると片側車線を車両止めしている工事現場が見えた。
対向車線は数百メートルの渋滞になっているが、私達の行く車線はがらがらだ。私は心の中で「やったー」と叫び、右手で握りこぶしをつくってお腹の前で小さくガッツポーズを作った。
目線を正面に戻すと、そこはゆるく下り坂になっていて、直線道路が数キロ先まで見渡せた。
環状通りは、道路と数多く交差している。横断歩道もあり、歩行者信号も設置されている。信号が短い距離に次々とある上、大きな道路と交差しているのか赤信号の時間が長い。
遠くまで見通せる連なる信号が順を追って赤に変わっていくひと昔前のゲームのような光景を、私は不安を抱えて見つめた。
「ねえ、お父さん。
なんかこの通り、信号多くない?」
相談相手としては頼りないと知ってはいたが、腐ってもタクシー運転手。明快な返事を期待し尋ねたが、お父さんは私の信頼をやすやすと裏切り「信号多いなぁ」とおうむ返しするだけだ。
そんなやり取りの中、車は最初の信号に引っかかった。
しかも、3本の道路が交錯しているこの場所は信号機の動きも複雑で特別に時間がかかりそうだ。
リアルに頼れる人間はいないと腹をくくり、私は再びネットに助けを求めた。
-----------
カリス
<なんかこの通り信号多い
回避した方が賢い?
>もとに戻る?
>それはロス
>北宮通りは?
事故現場まだ通り過ぎない?
>通り過ぎてない
もう少し先
環状通り終わってから左折し戻れ
>そんなに次々とは信号ひっかかんない
と思う
>奥の国道に行くべし
あちらの方が信号少ない
>いやマテ
このままの方が安全
-------------
ナイトの国は住人同士が激論を繰り返しているだけで、私への指示には至らない。私はただ、苛立ちをつのらせた。
「このまま行くの?
国道行くの?
どっちなの?」
スマホに打ち込むはずの言葉が、思わず口からこぼれる。
右手の指で細かく太ももを叩く私の独り言を、吉元さんは
「交通ルールは守んないとねー」
と、冷ややかに笑い飛ばした。
信号は青に変わり、車は直進する。
お父さんは
「おい、次の信号で右折するのか?
直進するのか?」
と判断を迫る。
『ナイトの国』の結論は出ない。車はどちらの指示でも柔軟に対応できるよう、右車線をキープする。
「このまま行っていいの?
ねえ、行けるのーー⁇」
私の悲痛な叫びに、リアルの声が返事した。
「行ける!!」
後部座席から響く自信満々の声に驚き、私は素早く振り返った。
